Photography: © Bart van Overbeeke

太陽光エネルギーだけで走るオフローダー、アイントホーフェン工科大学の学生チームが開発

19-09-2023

Solar Team Eindhoven

太陽光エネルギーだけで走るオフローダー、アイントホーフェン工科大学の学生チームが開発

Solar team2022‐23年のチームメンバー。さまざまな専門の学生がボランティアベースで結集している ©Bart van Overbeeke

オランダ・アイントホーフェン工科大学(TU/e)の学生チーム「Solar Team Eindhoven(ソーラーチーム・アイントホーフェン)」は、「ソーラーパネル」と「モビリティ」をテーマに、2年毎にプロジェクトに取り組んでいます。その最新のプロジェクトは、「太陽光エネルギーだけで走るオフローダー」。人里離れた砂漠など、充電インフラのないハードなオフロードを走れるソーラーカーを開発しました。

この画期的なイノベーションを可能にしている技術やチーム編成について、同チームのエレクトロニクス・エンジニアリング担当のNiek Boksebeld(ニック・ボクセベルド)さんとNiels van den Broek(ニルス・ファンデンブルック)さんに話を聞きました。

オーストラリアのソーラーカー大会で4回連続優勝、現在はコンセプトカーを開発

BvOF 2019 - Stella Era bij finish World Solar Challenge
2019年「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」大会、ファミリーソーラーカー部門で4回連続の優勝を祝うソーラーチーム・アイントホーフェンのメンバー ©Bart van Overbeeke

現在のソーラーチームは、地元TU/eとフォンティス応用科学大学の学生22人で構成されています。同チームは2年に1回、有志の学生が集まって編成されるもので、2019年まではオーストラリアで2年に1回開催される「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」に出場していました。同大会では2013年以来、オランダのチームが「クルーザークラス(ファミリーカー部門)」で4回連続優勝しています。

しかし、2021年からは出場せず、2年に1台、コンセプトカーを開発する方針に変えました。

「僕たちは同じことを繰り返し始めていたので、なにか違ったことをした方がいいと考えたのです。チームの目標は、世界をより環境に優しく、より良い場所にすること。そして、新しい技術で人々にインスピレーションを与えることです」(ボクセベルドさん)


ニック・ボクセベルドさん(写真:Solar Team Eindhoven)


ニルス・ファンデンブルックさん(写真:Solar Team Eindhoven)

新たな方針の下で、2021年に開発されたのが「Stella Vita(ステラ・ヴィータ)」です。「動く家」というコンセプトで、太陽光エネルギーで走行するだけでなく、中で生活することも可能にしました。

そして、これに続く今年のプロジェクトが「Stella Terra(ステラ・テラ)」。2021年9月に新たなチームによってスタートし、今年9月14日にお披露目されました。

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2023年9月14日にお披露目された「ステラ・テラ」©STE/Bart van Overbeeke

ソーラー・オフローダーは太陽光エネルギーの効率活用がカギ

「ガソリンや電気はどこでも得られるわけではありませんが、太陽はどこにでもあって、モビリティに自由を与えてくれます。僕たちはそれをさらに自由にして、道路のないところでも太陽光だけで走れるソーラー・オフローダーを開発しました」

ボクセベルドさんによれば、ステラ・テラはオンロードとオフロードの両方で走れるよう、太陽光エネルギーを最大限効率活用することに焦点が当てられました。砂地などのオフロードを走行する際は、普通の道路を走るよりもかなり多くのエネルギーを消費します。

ソーラーパネルとモーターやバッテリーの間に必要な制御コンバータを担当するファンデンブルックさんは説明します。

「ソーラーパネルから適切な量のエネルギーを適切なタイミングで取り出して、それを車輪を通して可能な限り効率的に伝達するようにしています。自転車を運転する場合も砂地ではシフトダウンしますが、アスファルトに戻ったらシフトアップする必要がある。それと同じようなことです」

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どの瞬間にもソーラーパネルからエネルギーを可能な限り効率的に取り出し、伝達するためのスマートコンバータを作るファンデンブルックさん ©Naoko Yamamoto

ほかにも、エネルギー効率化のため、あらゆる部分の材料を削減・軽量化したり、空気抵抗を最大限抑える形状にしたり、さまざまな工夫が施されています。また、オフロードを走るために最低地上高(車の底板と地面の間の距離)が高く、タイヤもオフロード用に最適化したものを使っています。

バッテリー容量は50キロワット時で、公道で太陽の光がない場合、フルチャージの航続距離は500㎞の見込み。車の最高速度は時速145㎞程度で、公道を走れるようにナンバープレートも取得しました。

イノベーションを生み出すチームの秘密

画期的なソーラーカーを次々と生み出しているソーラーチームは、企業や大学がスポンサーになってはいますが、これらから完全に独立した組織です。学生たちはプロジェクトに関わる間、大学をいったん休学して、全力でこのプロジェクトに関わります。その間の時給はゼロ。大学の単位ももらえません。しかし、独立しているからこその自由があります。

「誰もあれをしろ、これをしろ、と指図をしません。全部自分たちで決めるのです。本当にやる気と情熱がある学生だけが集まって、同じ目標に向かって一緒に楽しくやっている。チーム内には上下関係がなく、言っていいことと悪いことのフィルターもありません。どんな不可能なアイデアも排除しない、非常にオープンな文化があるんです」(ボクセベルドさん)

SOlar Team5ステラ・テラの製造現場 ©Naoko Yamamoto

同プロジェクトが成功した今、ボクセベルドさんはソーラーカーの設計や製造以外にも、チームづくり、役割分担、スケジュール管理、パートナー企業との連絡、広報など、大学の勉強だけでは予想もしていなかったことを学んだと言います。ファンデンブルックさんも、「新しい挑戦を経て、以前より自信を持てるようになりました」と述べました。

ステラ・テラは今年10月、実際にモロッコの砂漠を走る予定。そして、11月にはボクセベルドさんとファンデンブルックさんが来日し、同月29日にホテル「オークラ東京」で開催される「ブラバント・イノベーション・デイズ」でステラ・テラの詳細を発表します。オランダの学生の斬新なアイデアに触れられるこの機会に、ぜひお越しください!

ブラバント・イノベーション・デイズへのお申し込みはこちら

連絡先:info@solarteameindhoven.nl

picture of Naoko  Yamamoto
Naoko Yamamoto

Japanese writer and  publicist based in Eindhoven, The Netherlands