立体表面への大量印刷を可能にする「インパルス・プリンティング」

09-08-2023
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Naoko Yamamoto

Japanese writer and  publicist based in Eindhoven, The Netherlands


FononTech

次世代半導体の実装プロセスが1万倍のスピードに、立体表面への大量印刷を可能にする「インパルス・プリンティング」

Fonontech

スマートフォンや医療機器など、私たちのエレクトロニクス製品がより小さく、多機能になる中、半導体産業は小さなスペースにより多くの部品を配置する「アドバンスドパッケージ」に移行しています。複数の半導体を立体的に配置して統合するこのパッケージは現在、針で1つ1つ配線するワイヤボンディングで作られており、高速大量生産が難しい状況です。しかし、オランダ発の「FononTech(フォノンテック)」は、これを解決する画期的な印刷技術「インパルス・プリンティング」を開発しました。

複雑な立体の表面にも微細な線をプリント 

Inpurse Pringing
インパルス・プリンティングは、瞬時に加熱されたプレート上のインクが飛び出すことによって基板にパターンが印刷される。(資料:FononTech)

フォノンテックが開発したインパルス・プリンティングは、急速電熱器を使った新しい印刷技術です。「印刷元」となるプレートにインクを付け、プレートを瞬時に加熱することでインクを噴出させ、プレート上のパターンを「印刷先」の基板に転写する仕組みです。

非接触のプリント方法なので、どんなパターンでも転写できるほか、どんな基板にも印刷できます。例えば、導電性のインクを使って複雑な立体表面にラインを直接プリントすることも可能です。これは従来の接触型のプリント方法では成し得ない技でした。しかも、ミクロン(1㎜の1000分の1)レベルの微細な線を瞬時に大量印刷できる上、どんな種類のインクも使えるのです。

「複雑な立体構造のチップで必要となるミクロンサイズの配線であっても、私たちのプリンターを使えば一気に行うことができます。その速度は、現在のワイヤボンディングよりも1万倍速くなります」と、フォノンテックの共同創設者兼CEOのロブ・ヘンドリクス氏は説明します。同プロセスの高速化は次世代半導体の量産を可能にし、さまざまな次世代製品への可能性を開きます。

FononTech3DChipフォノンテックのプリンターでは、複雑な立体構造の半導体に導電性インクや誘電インクでミクロンサイズのラインを直接プリントできる(資料:FononTech)

大画面ディスプレイの電気接続にも応用

立体的な表面にも微細なラインを印刷できるインパルス・プリンティングは、OLED(有機発光素子)や微細なマイクロLEDを使ったディスプレイにも応用されます。現在の大型ディスプレイは一部が故障すればパネル全てを廃棄しなければなりませんが、小さなパネルをつなげて作ればコストも安く、一部が故障した際も、そのパネルだけを取り換えればよいので、無駄が少なく環境への負荷も小さくなります。

小さなパネルを組み合わせるとき、パネル間の配線が見えないような電気接続の工夫が必要となります。同社のプリンターを使えば、パネルの前面と背面を導電性インクを用いてミクロン配線幅で、かつパネルの端を回り込むという特殊な形で接続できます。すべてのラップアラウンド(回り込み)電極を同時に印刷できるため、1台のインパルス・プリンターの処理能力は毎秒10万本以上に達します。

半導体やディスプレイ以外にも同プリント技術は多くのアプリケーションへの可能性を秘めています。

wrap-around_impulse_printingガラスパネルの端っこを回り込む形で印刷された導電性のインク(写真:FononTech)

サステイナブルな印刷

rob_hendriksフォノンテック共同創設者兼CEOのロブ・ヘンドリクス氏(写真:FononTech)

インパルス・プリンティングは、光を使ったリソグラフィによる従来の印刷方法よりもサステイナブルでもあります。リソグラフィを使ったプリント方法では、基板を材料でコーティングしてから使わない部分を化学薬品で取り除くエッチングを施しますが、インパルス・プリンティングは必要なものだけを添加して印刷するので、無駄が少ないのです。

ヘンドリクス氏によれば、これにより二酸化炭素排出量は従来の1,000分の1に削減することができます。

ホルストセンターからのスピンオフ

インパルス・プリンティングは、オランダ南部ブラバント州を拠点とする研究機関「ホルストセンター」のノウハウを活用し、新たなアイデアを統合することで誕生しました。試験的な印刷機「インパルス・アルファツール」に続き、フォノンテックは現在、特定の顧客と産業用印刷機「インパルス・ベータツール」を開発中。2023年11月には市場に投入する予定で、同年第2四半期には1号機の納入が見込まれています。

インパルス・プリンティングの様子を実際に見てもらうため、印刷装置を小さなボックスケースに入れた「デモキット」も作りました。オランダのほか、すでにアメリカや台湾で披露し、大いに注目されました。今年11月29日に東京で開催される「ブラバント・イノベーション・デイズ」でも展示される予定です。ヘンドリクス氏は、「インパルス・プリンティングのマジックをぜひ体験してください」と述べています。

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連絡先: Contact — FononTech

impulse_alpha_tool_external1アプリケーション開発用印刷機「インパルス・アルファツール」(写真:FononTech)